通貨供給量と為替相場の関係

世の中に出回っているお金を合計すると、いくらになるのか―――。
そんな「お金の量」を示す指標が、「通貨供給量」(マネーサプライ)です。
この通貨供給量は、為替相場にも影響を与えます。
ここ数年の円高・ドル安は、アメリカの当局がドルの通貨供給量を増やしたことが要因の一つとされています。

通貨供給量とは

通貨供給量とは、個人や企業などが保有する通貨を合算したものです。
日本では、日本銀行(日銀)が毎日集計し、発表しています。

通貨供給量は、景気の動向を大きく左右します。
通貨供給量が増えると、世の中にお金が出回るようになり、個人や企業の出費が増えます。
この結果、景気が上向きます。
一方、通貨供給量が減ると、個人や企業が財布のひもを締めるようになり、景気は冷え込みます。

通貨供給量を調整するのは、各国・地域の中央銀行の重要な役目です。
日銀などの中央銀行は、自国の景気が悪いとき、民間の銀行にお金を貸し出す際の金利(政策金利)を下げることで、通貨供給量を増やそうとします。
逆に、景気が過熱気味になってインフレの恐れが出てきたら、金利を上げて景気をおさえようとします。

ソロス氏が注目した相関性

通貨供給量は、為替相場にも一定の影響を与えるとされています。
通貨供給量が増えると、その通貨の価格が下がり、逆に、通貨供給量が減ると、通貨の価格が上がる、というのです。

世界的な有力ヘッジファンドを率いる億万長者の投資家ジョージ・ソロス氏は、通貨供給量と為替相場の関係性に注目し、自らの投資に活用してきました。
ソロス氏の理論によれば、相対的に希少な通貨は、相対的に価値が高まります。
たとえば、日本円の通貨供給量が減って、アメリカの通貨供給量が増えると、円の希少価値が高まるため、円高・ドル安になります。

この相関性を示したグラフは「ソロス・チャート」と呼ばれ、多くの通貨トレーダーに広く利用されています。
ソロス・チャートは、2つの国の「ベースマネー」(マネタリーベース)の差と為替レートをグラフにしたものです。
ベースマネーは「中央銀行通貨」とも呼ばれ、中央銀行が民間の銀行に供給する貨幣量のことです。
日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金で計算され、マネーサプライの基(ベース)となります。
マネーサプライよりも、中央銀行の市場に対する“意思”が反映されています。

ピタリと当たったソロス・チャート

過去30年のソロス・チャートを見ると、日米の通貨供給量とドル円相場は、ほぼ似たような動きを示しています。
たとえば、1990年から1995年にかけて、アメリカのベースマネーは増え続けました。
1990年代前半、アメリカは景気悪化に苦しんでおり、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が断続的な金融緩和を行ったためです。

この間の為替相場を見ると、1990年に1ドル150円台だったドル円レートは、1995年には1ドル80円台になり、急激な円高が進展しました。
つまり、ソロス・チャートは見事な相関関係を描いたのです。

また、2007年から2011年の円高・ドル安においても、ソロス・チャートの正しさが立証されました。
サブプライムローン問題と、それに続くリーマンショックを受けて、米FRBは大規模な金融緩和に動き、ベースマネーを急増させました。
一方で、従来から大がかりな金融緩和が行われていた日本では、ベースマネーがそれほど増えませんでした。
この結果、2007年から2011年にかけて、ドル円相場と通貨供給量の動きは一致を見せたのです。

円高は日銀のせい?

最近、経済学者などの専門家の間で、「円高は日銀のせいだ」という意見もあります。
日銀の金融緩和が不十分で、アメリカなど他国のように通貨供給量が伸びていないために、円高に歯止めがかからない、という主張です。

こうした「日銀主犯説」の根拠の一つになっているのが、ソロス・チャートです。
ソロス・チャートを見れば、確かに日銀がFRBよりも大規模な金融緩和に動けば、円安に転じる流が期待できます。
このため、一部専門家は「円高を阻止するには、円売り・ドル買いの市場介入よりも、日銀が貨幣を大量にばらまくことが効果的だ」と主張しているのです。

ソロス・チャートが外れることも

一方で、過去の例では、ソロス・チャートが機能しないこともあります。
通貨供給量と為替相場が反対の動きを見せる局面です。

2001年から始まった日銀による金融の量的緩和の局面では、円資金が空前の規模で市場に供給されました。
その結果、日米のベースマネーの比率は大きく変化し、為替相場は大幅な円安・ドル高になると予想されました。
しかし、結果はその正反対になりました。
ドル円相場は2003年から2004年にかけて100円割れ寸前の円高・ドル安となったのです。
ソロス・チャートは見事に外れました。

この時期、円高・ドル安になった理由は、「アメリカの経常赤字が史上最大規模に膨らんでいたため」「アメリカ政府が事実上、ドル安を容認する姿勢に転換したため」などと説明されています。

いずれにせよ、為替相場を先読みする際には、日銀やFRBが通貨供給量をどう誘導させようとしているのか、その動向に注目する必要があります。